あなたに夢中
なにを求められているのかわからず首をかしげたのも束の間、手を差し出した真意を知って思わず後ずさる。
ただ服を買いにいくだけなのに、どうして手を繋がなければならないのだろう。
目の前にある大きな手のひらと、目鼻立ちの整った顔を交互に見つめて頭をひねる。しかし渡辺君はいつまでも答えを出せずにいる私にしびれを切らしたかのように、強引に手を握って歩き出した。

「どんな服を買うつもりですか?」

大きな手の温もりを感じて胸が早鐘を打つ中、彼の話に耳を傾ける。

「出かけるときに着ていく服と、それから……」

Cosmo7のNAOKIの推しであることを誇りに思ってはいるけれど、いい歳をしてアイドルに夢中になっていると知られるのは恥ずかしいという気持ちが心の片隅にある。
今になって渡辺君に、ライブに着ていく服を探しているとは言いにくい。

「それから?」
「えっと……動きやすいけどカジュアルすぎず、かわいさもある服かな……」
「意外とむずかしいですね」

服のイメージを曖昧に答える私の横で、彼は眉間にシワを寄せる。
真剣に悩んでくれる渡辺君の横顔を見つめて歩を進めていると、駅前近くのとあるセレクトショップが目に留まった。
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