あなたに夢中
「ここ見てもいい?」
「もちろん」

ガラス張りのショップに入り、太陽の日差しが差し込む明るい店内に並ぶ服やアイテムを渡辺君と見て回る。そして、彼のアドバイスを参考にして選んだニットとスカートを試着する。

「うん。よく似合ってますよ」

試着室から出た私の姿を見た渡辺君の口もとがほころぶ。
お世辞だとわかっていても、褒められるのはうれしい。

「そ、そうかな。ありがとう」

赤いモヘアのニットはやわらかくて肌触りがよく、黒のロングスカートは歩くたびに揺れるプリーツがかわいい。
この服が似合っているか自分ではよくわからないけれど、渡辺君が太鼓判を押してくれるのなら自信を持ってライブに着ていける。
そのほかにも店員が勧めてくれたトップスと靴を何点か購入して、ショップを後にした。

「佳乃さんって、やっぱり赤が好きなんですね」

ショップには黄色や緑のニットもあったけれど、赤を選んだのはNAOKIのメンバーカラーだから。でも本当のことは口が裂けても言えない

「う、うん。まあね」

作り笑いをして適当に誤魔化す。
買い物に付き合ってアドバイスまでしてくれた渡辺君に対して、うしろめたい気持ちを感じて歩いていると駅前のロータリーに着いた。
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