あなたに夢中
「堀田さん」

顔を見なくても、この声は渡辺君だとわかる。
低くて耳に心地いい声を聞いた瞬間、胸がドキドキと音を立て始める。
足を止めて呼吸を整えながら振り返ると、そこには渡辺君の姿があった。
久しぶりにふたりきりになったせいか、照れくささを感じてしまう。それは彼も同じで、珍しくはにかんで笑っている。
まぶしい笑顔と向き合って胸がキュンと高鳴ったとき、目の前にあるものが差し出された。

「これ、受け取ってください」
「えっ?」

思わず驚いてしまったのは、差し出されたものがCosmo7のライブのゲストパスだったから。
渡辺君がどうしてパスを持っているのかわからない。

「詳しい説明は明日します。午後三時に家まで迎えに行きますのでそのつもりでいてください」

彼は戸惑う私にパスを強引に押しつけ、足早にオフィスに戻っていく。
尋ねたいことは山ほどあるけれど、業務が立て込んでいる中、渡辺君を呼び止めて聞くわけにはいかない。
ここは大人しく明日になるのを待とうと決めて、ホットミルクティーを買うために自動販売機に向かった。
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