あなたに夢中
真剣な面持ちで運転する姿はとてもカッコいいし、ハンドルを握る手の甲に浮き出た血管に男らしさを感じてしまって目が離せない。
会社では見られない姿に、胸が高鳴り始めるのを自覚する。

「前にも言いましたけど、その服とても似合っていますね」
「ありがとう」

渡辺君が褒めてくれた赤いモヘアのニットと黒のロングスカートは、今日のライブのためにセレクトショップで購入したものだ。
似合っていると気遣ってくれるのはうれしいけれど、今聞きたいのはお世辞ではない。

「どうして渡辺君がゲストパスを持っているの?」

ハンドルを握る彼に、昨日から気になっていたことを尋ねる。

「とある筋から入手しました」
「とある筋?」
「はい」

首をかしげる私の隣で、彼はクスクスと笑う。
社長の息子である彼には、一社員である私が知り得ないコネクションがあるのだろう。
『とある筋』について問いただしたい気持ちはあるけれど、それよりも気になることがある。

「私、抽選で当たったチケット持っているんだけど」
「今日は俺が用意したゲストパスを使ってください」

応募しては落選を繰り返した末に、ようやく当選したチケットを使えないのはもったいない気がしてしまう。
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