あなたに夢中
誠実な渡辺君がライブ終わりに説明してくれると言うなら、そのときを大人しく待とうと素直に思えた。
それでも、疑問に思うことはまだまだある。

「私がNAOKI推しだと知ってあきれたでしょ? それなのにどうして一緒にライブを見ようと思ったの?」

私の部屋にある推しグッズを見た渡辺君は確実に引いていたし、それから数日間は会話を交わさない状態が続いた。
それなのにゲストパスを用意して私とライブを観ようと思うなんて、どういう心境の変化があったのか気になる。

「あれは……ただの嫉妬です」
「嫉妬?」

キラキラのアイドルであるNAOKIと、一般人である私たちは住む世界が違う。
それなのにNAOKIに嫉妬するなんてどう考えてもおかしいと考えていると、照明が落ちてライブが始まった。
華やかな衣装をまとってステージ上で歌って踊るCosmo7のメンバーの姿を見ただけで、感極まって涙が込み上げてしまう。
でも、隣にいる渡辺君に泣いていると知られるのは恥ずかしい。
ペンライトとうちわを握りしめて、瞳から涙がこぼれ落ちないようにグッと堪えた。
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