あなたに夢中
御曹司ならではの苦労があったと初めて知り、胸がチクリと痛む。

「渋谷でバッタリ会ったとき、佳乃さんのことを知れるチャンスだと思って、意気込んで声をかけました。スイーツを食べに行く週末はとても楽しかったし、もっといろんなところにふたりで出かけたいと思っていたのに、佳乃さんが弟のNAOKIを好きだったなんてショックでしたよ」

渡辺君は話を終えると、大きなため息をつく。
拗ねたよう口調はかわいいけれど、嫌味のようにも聞こえてしまって心穏やかではいられない。

「たしかに私はNAOKI推しだけど、渡辺君に対する好きとNAOKIに対する好きは違うものだから」

今日、NAOKIと初めて対面して興奮したのは事実だけど、それが恋愛感情かと聞かれたらNOとハッキリ言える。
私は渡辺君が好き……。
彼に対する恋心をようやく自覚する。けれど、この思いをこの場で口にする勇気はない。

「そうですか。それはうれしいです」

私の必死な言い訳を聞いた渡辺君の口もとが微かに上がるのが見えたとき、車内にウインカーの音が響く。

「もうすぐ着きますよ」
「う、うん」

彼への思いをどのように伝えればいいのかわからないまま、車窓の外に広がる横浜の夜景を見つめた。
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