あなたに夢中
今日の私は黒のシャツにジーンズスタイル。しかも歩きやすいようにスニーカーを履いてきた。
こんなラフな格好でハイブランドショップに入っていいのか戸惑いつつ、彼の後を急いで追った。

白を基調としたモダンでスタイリッシュな内装の店内は、二階へ続く螺旋階段が存在感を放っている。

「うわぁ、素敵」

ハイブランドショップに足を踏み入れたのは今回が初めて。
フロアに並ぶ洗練されたデザインのバッグやジュエリーから目を離せずにいると、私を呼ぶ声が耳に届く。

「堀田さん。こっち」
「あ、はい」

身の丈に合わない商品に夢中になってしまったことを気恥ずかしく思いながら、手招きをする渡辺君のもとに歩み寄った。

「これとこれ。どちらがいいと思いますか?」

きらびやかな雰囲気に気後れしている私とは違い、彼は落ち着いた様子で手にしている二枚のスカーフを差し出す。
オシャレに無頓着な私はスカーフなんて今まで一度も買ったことなどないし、身に着けたこともない。
どっちかいいか聞かれてもすぐには決められずに、スカーフを交互に見つめる。
明るいオレンジ色をベースにしたスカーフを身に着けたら気分が上がりそうだけど、ここはこの一択しかない。
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