あなたに夢中
「こっちで」

メガネのフレームを掴んで押し上げ、推しのメンバーカラーである赤のスカーフを指さすと、渡辺君は切れ長の瞳を細めてフッと微笑む。

「そうですか。じゃあこれにします」

もしかしたらスカーフは彼女へのプレゼントで、どちらがいいのか尋ねてきたのは同性の意見を聞きたかったのかもしれない。
これで役目は終わったはずだし、高級な品が並ぶこの場所は居心地が悪い。

「それじゃあ、私はこれで」
「あっ、ちょっと待ってください。もう一カ所、付き合ってほしいところがあるんです」
「えっ?」

ラッピングを待っている渡辺君に声をかけて立ち去ろうとしたものの、すぐに呼び止められる。
学生時代から友人がおらず、ひとりに慣れている私にとって、この後も彼と行動をともにするのは正直きつい。
渡辺君には悪いけれど、急用を思い出したと言って断ろう。
そう心に決めた矢先、ラッピングが終わった商品を手にした店員が私たちの前に姿を現す。

「お待たせいたしました」
「ありがとうございます。じゃあ、行きましょうか」

渡辺君はショッパーバッグを受け取って出口に向かう。
軽やかな足取りで店内を進む彼を引き止めて断るなんて、小心者の私には無理だ。
自分の気の弱さを嘆きながら、ショップを後にする渡辺君を追った。
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