あなたに夢中
「マジで迷うな」

渡辺君は眉間にシワを寄せて真剣な面持ちでメニューを見つめる。
付き合ってほしいもう一カ所の場所とはパンケーキ店のことで、淡いピンクの壁紙に丸いテーブルとイスが並ぶメルヘンチックな店内には甘い幸せな香りが漂っている。

「俺はこのチョコレートパンケーキにします。堀田さんは決まりましたか?」
「わ、私はこのフレッシュフルーツのパンケーキにします」

オシャレなカフェで、家族以外の人と向き合って座る日が訪れようとは露ほどにも思わず、声が上ずってしまう。
後輩の彼を前に緊張してしまうなんて恥ずかしいと思いつつ、イチゴやキウイなどのフルーツがふんだんに盛りつけられたパンケーキの写真を指さした。

「了解です。すみません」

渡辺君は店員を呼び止めて、スマートにオーダーを済ませる。

「甘い物……好きなの?」
「はい。大好きです」

ハイブランドショップでは落ち着きのある言動をとっていた彼が、実はスイーツ男子だったとは驚きだ。

「この前会社で、この店のパンケーキがおいしいって小耳に挟んだんですよ。でも男ひとりで来るのは恥ずかしいじゃないですか。だから今日は堀田さんに付き合ってもらえてよかったです。ありがとうございます」

渡辺君は照れ笑いを浮かべて小さく頭を下げる。
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