あなたに夢中
圧倒的に女性客が多いこの店に入るのは、彼の言う通りたしかに勇気がいる。でも渡辺君には、スカーフを贈る恋人がいるはずだ。
「彼女に一緒に来てもらえばいいのに」
同じ部署で働いているにもかかわらず、今までまともに会話を交わしたことのない私とパンケーキを食べても気を遣うだけで楽しくないだろう。
どうして彼女ではなく私を誘ったのか不思議に思って尋ねると、予想外の言葉が返ってきた。
「残念ながら今は彼女いません」
「えっ? だってあのスカーフは彼女へのプレゼントでしょ?」
「いいえ。あれは母親へのプレゼントです。来週、誕生日なので」
「そう……でしたか」
「はい」
高校を卒業すると同時に上京した私が実家に帰るのは、夏休みとお正月のみ。その際も地元では買えないお菓子を手土産にするだけで、家族の誕生日にプレゼントを用意したことなど一度もない。
母親の誕生日にハイブランドのスカーフをプレゼントする家族思いの渡辺君に尊敬のまなざしを向けていると、オーダーしていたパンケーキが運ばれてきた。
「おいしそうですね。いただきましょうか」
「うん。いただきます」
ふたりで両手を合わせて挨拶をすると、パンケーキを切り分けて口に運ぶ。
「彼女に一緒に来てもらえばいいのに」
同じ部署で働いているにもかかわらず、今までまともに会話を交わしたことのない私とパンケーキを食べても気を遣うだけで楽しくないだろう。
どうして彼女ではなく私を誘ったのか不思議に思って尋ねると、予想外の言葉が返ってきた。
「残念ながら今は彼女いません」
「えっ? だってあのスカーフは彼女へのプレゼントでしょ?」
「いいえ。あれは母親へのプレゼントです。来週、誕生日なので」
「そう……でしたか」
「はい」
高校を卒業すると同時に上京した私が実家に帰るのは、夏休みとお正月のみ。その際も地元では買えないお菓子を手土産にするだけで、家族の誕生日にプレゼントを用意したことなど一度もない。
母親の誕生日にハイブランドのスカーフをプレゼントする家族思いの渡辺君に尊敬のまなざしを向けていると、オーダーしていたパンケーキが運ばれてきた。
「おいしそうですね。いただきましょうか」
「うん。いただきます」
ふたりで両手を合わせて挨拶をすると、パンケーキを切り分けて口に運ぶ。