此方は十六夜の蝶。
序章
「お恵みを…、お恵みを……もらいとぉございます」
腹が減った。
なにも食べるものがない。
地面に座り、膝を抱えて、10歳の私は小さな声でぶつぶつと繰り返していた。
「ねえおっかさん、あの子になにかあげなくていいの?」
「乞食(こじき)よ。まだ幼いのに可哀想だけど……、いくよタツ坊」
「でも…」
「あの歳の子ならどちらにしろ吉原に売られるだろうから、いいのよ」
野良犬が食べていた残飯を食べ、川の水を飲み、草木を布団にして眠る。
数ヶ月前に育てのじじ様が死んでからというもの、独りで生きていかなくちゃならなくなった。
孤児はこの近辺ではあまり見ないが、川縁で野垂れ死んでいる浮遊者なら何人か見てきた。
私もいずれは、近いうちは、ああなるのだろう。
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