此方は十六夜の蝶。
「にしても、よくオレと出会うまで生きてこられたよなあ」
「……野垂れ死んでると思った?」
「ははっ、ちがうちがう、そうじゃなくってさ。おまえ、泳げないだろ?釣り竿も作れないだろ?畑耕すのだってオレがやってやったんだぜ?」
「……なんとか、やってたよ」
本当は、やれてなんかいなかった。
私ができる範囲の頼まれ事であれば基本なんでも引き受けるような毎日だったけれど、限界はあった。
色事目的で近づいてきた人もいたし、憎む相手を殺して欲しいなんて依頼も。
怖くなって逃げて逃げて、でも……生きろって言われたから。
生きてさえいれば幸福は必ず与えられるって、ある人が言ってくれたから。
「…やさしいひとが…、そばにいてくれたから」
「やさしいひと…?」
「…うん」