此方は十六夜の蝶。
「寂しかった?」
「……ひとりぼっち、だから」
「…おいで」
ぽんぽんと、膝を合図される。
流れるままに向かい合おうとした私に「今日はこっち」と、つまりは背中だと。
背後を守られている安心も落ち着くものだった。
すぐうしろにある緋古那さんの整った顔と、耳元に広がる掠れ声。
そして目に入るたびに追いかけてしまう飛べない蝶。
「右の舞子は翔藍(しょうらん)といって、今はあんなふうに堂々としているけれど…昔は厠(かわや)にもひとりで行けなかったくらいでね」
「……………」
「左は右京(うきょう)。左にいるのに右京、……かなりの好青年に見えるだろう?でも実際は抜きん出た女好きだから、ウルも気をつけて」
「……………」
こういった時間が幸福で満たされると、この人は言っていた。
自分の貪欲さに嫌気がさしてくる。
期待ばかりをして、そうではないからといって勝手に傷ついている自分が。