此方は十六夜の蝶。
「どうして…、握り飯を届けてくれたんですか…?」
「……昔のことか」
「…それもそうですが、この前も」
キツネさんがあなただと分かった今、私もあなたも隠すことなんてない。
ふたりだけでもある場所で、ただ、あなたの想い人のことさえ思い出さなければ。
「…この前…?」
「緋古那さんにお願いしたんでしょう…?彼も水月さんから頼まれた…と」
「…緋古那がそう言ったのか?」
「え?あ、…はい」
「……そうか」
思ったほど流暢(りゅうちょう)には進まない会話に違和感を持ちながらも、私は彼の膝の上で再び酔いしれていた。
じっと見つめると合わせてくれて、ふっとわずかに細まる。
それだけで幸福を感じてしまっている私は、なんとも醜い女だと思う。