此方は十六夜の蝶。
須磨さんは見るからにうつくしい女性だった。
彼女が女郎であれば、地位はかなりのものだと見ただけで分かる。
でも、ここでくらいは比べるなと言いたい。
夢を見せろと、威張りたい。
「っ、今日呼び出したのもっ、結局そういうことじゃないですか…!」
ぐいっと、腕から逃れるように押し返す。
こんな思いをまたするのだったら、緋古那さんとひなあられを食べていたほうが良かった。
彼の腕に甘えて子供返りしていたほうが、有意義な時間を過ごせた。
「────ウル」
「っ…!」
はじめて、名前を呼ばれただなんて。
まるでこのときにとっておいたみたいに、姑息なやり方だ。
力が抜けてしまった私の身体は、すでに準備だけはできていた布団の上に倒される。
「おまえを泣かせたかったわけじゃない。これは本当だ」
垂れ下がった耳飾りが、誰かが常に付けている寂しい蝶と重なって見えた。