此方は十六夜の蝶。
夢みたいだ。
ここは夢を見る場所なのだから、いいんだ。
「…鷹がいなくなって寂しかったから、おまえはここに来たんだろう」
「……はい」
「なぜ、いなくなった?」
「……悪いこと、…しちゃったから…」
それは聞いた───と、真っ赤に燃える私の鼓膜に追い討ちをかけてくる声。
「言えない?…俺は聞きたいんだが」
「…どうしてそんなに聞きたいの……?」
「…ウルのことを知りたいから、かな」
どうしたって結んでしまう私の唇を、人差し指と親指でつまむようにほぐそうとしてきた。
うあっと、小さく開いたならば、あえて指を押し付けてまで噛ませられる。
「おまえの不安や悲しみを取り除いてやりたいんだ」
仕込まれたものだとは思えないほど自然で、なまめかしく、優艶だ。
床の作法もお手のものなのだろう。
声質だけでなく、言葉、仕草、すべてが女の弱い部分を知っているかのよう。
花魁というのは、決して名だけではない。