此方は十六夜の蝶。
「鷹は…っ」
「…ああ」
「私のために……人を…っ、殺しちゃったの……」
「─────………」
「……すいげつ、さん…?」
この現実だけは、甘さをも掻き消してしまう。
言ってから後悔だった。
こうなってしまうなら言わなければ良かったと、水月さんはいつだって私にそう思わせてくる。
「…いまも、鷹はそういうことをしているのか」
「……わからない。けれど、お金に目がくらんで、狂って、盗賊になってしまったことは…確かです」
「そうか」と、それだけ。
たった今まで熱でどうにかなってしまいそうだった私の全身は、何事もなかったかのように恐ろしいほど冷えきってしまっていた。
そうして彼は私から手も唇も、離す。