此方は十六夜の蝶。
「この場所は誰も来ないから、夜明けまで使ってくれていい」
「え…、水月さんはどこへ…?」
「花魁である俺と一夜を過ごす金は、大判1枚ごときでは足りない。俺はそう安売りしていい立場でもない。
俺は客を選べる立場にあると、最初にも言ったはず。これは吉原の掟だ」
掟を破った客は出禁になるぞ、と。
それだけを言って、彼は私の乱れたものの脱がされはしなかった着物を戻し、部屋を出ていった。
その日、私はひとりでこの部屋で朝を待った。
翌朝迎えに来てくれたのは緋古那さんで、大門まで見送ってくれたのも緋古那さん。
「俺があいつを殴っておくから。…ウル、それでも俺はきみに会いたいんだよ」
夢に閉じこもるように眠り、目覚めた瞬間から大粒の涙が止まらなかった。
そんな私をやさしく抱きしめ、次回ぶんの金を渡し、痛いくらいの彼は門から送ってくれた。