此方は十六夜の蝶。
10歳で吉原に連れてこられた私は、常に願っていた。
こんなところ早く出て行ってやると、金だけ貯めてさっさと出て行ってやると。
しかしとっくに自分の身体は金に換えられていたことなど、知らなかったのだ。
『なっ、その髪…、なにをしちまったの須磨……!!』
『こんな女、ここに置いておけないだろ!さっさと追い出せばいいっ』
『馬鹿なことを言っていないで…!!あんた自分がしたこと、わかっているの!?』
剃刀(かみそり)で短く切った髪をわざわざ二階番たちに見せ、『こんな女は使い物にならない』の言葉を貰おうとした12歳。
弟に会いたかった。
まだ6歳だった弟に、はやく。
自分は12だから、弟は8歳になっている。
ここ─吉原─から追い出されたと笑い呆ければ、父も母も受け入れてくれるだろうと。