此方は十六夜の蝶。
目鼻立ちがくっきりしてきた。
出会った頃よりも身長が伸びて、今では私の身体なんかすっぽり隠してしまえる。
美丈夫と、鷹を見た女たちは口を揃えて言う。
そんな容貌を持っている鷹は、過去に役者の世界へと誘われたこともあった。
けれど私がいるからと断ったんだ。
「あ。ウルおまえ、“自分がいなかったら”とか思ってんだろ?」
「……うん」
「歌舞伎も吉原も、オレはなんの興味もない。おまえと笑って暮らせたほうがどう考えたって幸せだ」
………よしわら……?
歌舞伎のことは知っていたが、吉原は初耳だ。
吉原は、江戸随一の花街。
しかしそこは女が売られる場所で、男は買う側のはず。
鷹はいったい、なんのことを言っているの…?
「吉原なんて、ぜったい……だれが行くか、あんな場所」
私に甘えるようにしながらも、鷹はギリッと歯を噛んでまで嘆いていた。
そういえば鷹の家族は、お姉さんが花街に売られて……そのあと。
一家心中を図ったのち、鷹だけが生き残ったと言っていたっけ。