此方は十六夜の蝶。
心からの申し訳なさそうな顔。
そりゃあ確かに、吉原への案内を女にさせる気まずさはあるだろう。
庶民のあいだではまさか女が通う吉原があることなど、だれも知らないのだから。
けれど今、この近辺を目的もなさそうに歩いているのは私だけ。
快くうなずいて、彼を橋のあたりまで案内することにした。
「あとはこの商店街を進めば、灯りが見えてきますので」
「いやあ、助かりました!ありがとうございます」
「…いえ。それでは…」
「あっ、ちなみにお嬢さんはよく吉原をご存知なことで…!」
できるなら苦笑いで乗りきりたい。
近くに住んでおりましたので、護身のためにも逆に知識だけは。
そんな御託を並べたような気がするけれど、脳に残らないくらいには適当だった。
「もしやあれですかな?ちょっくら噂で聞いたのですが……」
ちょいちょいと手招きされ、耳を貸せ貸せと。
声音を落としながらも興奮ぎみに、おじさんは噂話を私に聞かせてきた。