此方は十六夜の蝶。
「女性のための吉原もあるみたいなんです。どうも……裏吉原、なんて言うんだそうで」
「そ、そうなんですね…、初めて……聞きました」
「……左様ですよねっ!すみません、あっ、これ、お礼に受け取ってください」
「…え…、」
ぎゅっと握られた手のなか、埋め込まれるように。
それは間違いなくお金だった。
黄金色に輝く1枚は、庶民が手にするべき一文銭でも四文銭でもなく。
「そ、そんなの結構ですので…!お返しします!」
「いえいえ貰ってください…!ほんの気持ちですから…!」
「いやっ、小判だなんて貰えません…!ただの道案内ですから…っ」
「ああしまった!私が目星を付けている女郎は人気者らしくって!ではまた!」
やはり遊郭に通う人間たちは金銭感覚がおかしい。
道案内で小判って……。
どこからそんなお金が出てくるのかと、本気で不思議だ。
とっくに駆け足で行ってしまったし、生活費に困っていたのは本当。
これは……使ってもいいのかな…?
「────やっとお会いできました。お元気そうで何よりです。…羽留(うる)姫さま」
私が背を向けた頃に振り返っては、彼がそう言って涙を流していただなんて。