此方は十六夜の蝶。
「ごめんください。このあたりに鷹くんという青年はいらっしゃいませんか?」
そしてある日のこと、見知らぬ人間たちが尋ねてきた。
「鷹…?」
「もしやお嬢さんのお知り合いで?」
つい反応してしまうと、笑顔を貼り付けた男たちが寄ってくる。
外で洗濯をしていた私は、すぐにたらいと衣類を片した。
「い、いえ…、知りません。そんな人…このあたりにもいません」
「私たちは吉原の人間です」
「よ、吉原……?」
「と言っても、お嬢さんに用があるわけではないので怖がらないでください」
花街の人間がこんな昼間に、下町の集落からも外れたこんな田舎にまでやって来るだなんて。
警戒心を露に見せる私とは反対に、彼らは人の良さそうな空気感で鷹について聞いてくる。
きっと、素直に動きを止めてしまったのがいけなかったんだ。