此方は十六夜の蝶。
「おまえが惚れている女を騙して泣かすということも、なかなか最悪で酷な役目だぞ緋古那」
「……わかってるよ」
それくらいしてまでも、友にそれくらいさせてまでも、また会えたこの子と一緒にいたい。
水月をキツネさんだと信じ込んでいるウルから、俺だけを見てもらえることなんかない。
その目的がなければ、彼女はここに訪れる理由もないだろう。
もし万が一、俺だけを見てもらえたとして。
かえって傷つけてしまうんだよ俺のような男は。
「須磨ちゃんにも悪いことしてると思ってる。けど……これだけは頼む、水月」
「…おまえにはたくさんの恩がある。それを返しているだけだからな、俺は。……寅威」
それは俺の本当の名。
母親が付けてくれたというが、実際のところはどうか分からない。
吉原の花魁にとって、子供を産むということは価値をなくすようなもの。
「……ありがとう、八尋」