此方は十六夜の蝶。
「ひこなさん、」
「…ん?」
「そちらに……行ってもいいですか」
わずかな隙間を埋めたい。
今日は来てくれないんだ…と、彼の積極性と優しさにばかり甘えていたらだめ。
あの涙の意味を、微かな行動の異変にあるのならば知りたいと思う。
「どうぞ」と、一言。
私はすぐに身体をおずおずと擦り寄せた。
「水月は今日はどうだろう。暇していたら、ここに呼ぼうか」
「…大丈夫です。今日は、緋古那さんといたい…ので」
「……男を惑わすことを言うようになったね」
「そ、そんなつもりじゃ…」
ないの、ないんです。
本気だというのに、私がそんなときほどあなたは冗談にしてしまう。
正直に聞いてしまいたいのに、それができないのが私だ。
どうして泣いていたの、と。
あなたがキツネさんの面を被っていた理由は、そこに対してはさほど気にはならない。
それは、キツネさんの優しさと緋古那さんの優しさはとてもよく似ているから。