此方は十六夜の蝶。
「水月のことは俺がちゃんと殴っておいたから。あいつもさ…、器用そうに見えて不器用なんだよ」
「……いいです」
「え?」
「水月さんの話は、もういいです。せっかく緋古那さんといられるのですから……彼の話はしないでください」
あなたとの時間だ。
あなたとの会話を楽しんで、あなたの笑顔のほうが大切。
水月さんに対して怒っているとか、いじけているとか、考えたくないがための逃避というわけではない。
それほどこの人の涙は私にとって、流させてはいけないものだったのだ。
「…そんなに可愛いことを言わないで。結局のところ俺なんてものは、きみの優しさに甘えているだけなんだから」
頬が触れあって、もっと、なんて求めたくなった。
最低な女だ。
最低すぎる、女だ。
ほんの前までは水月さんに会うまでの道のひとつとして、この人を利用していたような私のくせに。
失恋したからといって、なんにも相手にされなかったからといって、緋古那さんに乗り換えるつもり…?