此方は十六夜の蝶。
「しかしながら花魁が赤子を授かるということは、吉原では自らの価値をなくすと同等。女郎にとって子供は……害でしかないんだ」
「その子は、どうなったのですか…?生まれたのでしょう……?」
「…存在してはいけない子として、隠されつづけてこの場所で育ったよ。母親にも会わせてはもらえず、とくに夕霧の客が燈楼したときなんかはもう……一日中蔵のなかに閉じ込められていた」
どうしてそこまで…。
きらびやかな街だと思っていた。
灯りから誰よりも遠かった私とは、天と地の差がある街だと。
これじゃあ、私と変わらない。
「それが……、水月さんの過去なのですか…?」
「……まあ、そうなるのかな」
しっくり、こない。
水月さんの過去ならば、正直にそう言えばいいだけの話。
わざわざ“キツネさん”だなんて含ませることなく。
いつも水月水月と、花魁である彼を呼び捨てにしてしまえるあなたなのだから。