此方は十六夜の蝶。
「私たちがいるから、貧しい生活を虐げられている方々が救われてもいます」
このひとは決して、根っから悪に染まっているわけではないのだろう。
金で釣ろうとしていることは事実だし、こちらの逃げ場をなくしてくるような追い込みもしてくる。
けれど、彼が言っていることも間違いとは言えなかった。
「そもそもなぜ吉原が作られたのか、考えたことはありますか?それは犯罪防止のためでもあるんですよ」
世の中に貢献していると、言いたいのだろうか。
これは恥じることでもなく、むしろ誇りあることだとでも。
そうやって丸めてくるのもまた、彼らの技だ。
「500両、私たちはお嬢さんに今ここで渡すことができる。それほどの財力は持っています。…そうすれば、きれいな着物も買えるでしょう」
まるで私の格好を蔑んでいるようにも聞こえた。
元服した15歳にもなって色がついた着物を着たことがなく、破れてしまった場所は縫うことが当たり前。
正装など持っていないし、とくに最近は町へ繰り出すことすら本当は恥ずかしい。