此方は十六夜の蝶。
水月さんも迷わず言ってしまったほうがいい。
鷹は回りくどい言い方をされることがいちばん嫌いなの。
「鷹。…江奈に会いたいか?」
「っ…!」
「江奈は今、吉原で須磨という花魁になっている。……俺は須磨に、おまえを会わせてやりたい」
会わせてやれるぞ───と、水月さんはやさしく言った。
「……オレは会いたくねえ」
うそつき。
ポタリポタリと、床に涙が落ちてゆく。
「オレは会いたくなんかねえ…っ」
会いたくないならそんな顔はしないよ、鷹。
本当にそう思っているなら涙は出ないはずでしょう。
こぶしだってそんなに固く握らない。
肩だって震えないよ。
「あわせる…っ、顔がねーよ……っ」
「……鷹、」
「とーちゃんもかーちゃんも死んで…、オレだけが無様に生き残っちまった……っ、それにオレはっ、しちゃいけねえ悪いことまでした……っ」