此方は十六夜の蝶。
自覚はあったんだ。
自分が犯罪に手を染めているという、自覚が。
本当はここに帰ってくることだって、何度も何度も迷って葛藤したのかもしれない。
私が受け入れてくれなかったらどうしようって、ここに誰もいなかったらどうしようって。
「生き残ってしまった、なんて言うな。お前だけでも生きていてくれて須磨は喜んでいる。…悪いことをしたと思っているなら、反省しているなら尚更、会いに行ってやってくれないか」
「だってっ、ねーちゃんのほうがオレのこと忘れてるかもだろ……っ」
「須磨は…、江奈はずっと、おまえのことを忘れたことなんかなかった。
1度だけ吉原を本気で抜け出すと……おまえたち家族のもとに会いに行ったことまである」
「ねーちゃんが……?」
「ああ。だが……そこには誰もいなかった」
すでにそのときは、鷹が必死にひとりで生きていたときなんだろう。
まだギリギリ私と出会っていないとき。