此方は十六夜の蝶。
「ウル様、今宵は月より星のほうが綺麗だそうです」
緋古那さんに頼まれたのか、翔藍さんが大門まで送ってくれる。
地面ばかりを見つめてしまう私は人にぶつかりそうになっては、翔藍さんに支えられるままに歩いた。
そのとき、向かい側から歩いてくる美しい女性。
「…どうにも最近、緋古那に可愛がられているんですって?」
すれ違い様に言われた言葉ひとつで、彼女なのだと察しがついた。
今日という夜、緋古那さんを買った風見姫という人は。
赤というより紫に近い色を唇に這わせ、まるで彼とお揃いに仕立てるみたく垂れ下がる簪が髪にひとつ。
着物に描かれた模様は蝶だ。
それさえ私を煽ってきているような気がしてならない。
「……行きましょう、ウル様」
「あら。ずいぶんと生意気な振袖新造なこと」
立ちすくんでいた私を庇うように声をかけた翔藍さんが、彼女にクスッと笑われてしまった。