此方は十六夜の蝶。
でも緋古那さんは、行かないよ。
寅威さんはここを出られないよ。
疑問だらけの確信だけが、私の胸までをもグサグサと刺してきた。
「いずれは考えているけれど、今はもう少し遊びたいじゃない?それに……緋古那の価値は吉原だからこそだもの」
「……価値…?ではそれは、ここの場所から退いたら彼の価値がなくなるということですか…?」
「あそこまでの美貌があるならあたしは嬉しいけれど。まあ…そうね、そうとも言えるかもね」
これが水月さんが言っていたことなのだろうか。
緋古那さんが重宝視されている理由は、夕霧の息子だから───ただそれだけ。
「…そんなこと、ありません」
あのひとの優しさは、価値だ。
あのひとの温かさは、価値だ。
たとえ吉原を抜けたとしても、緋古那さんにしかない価値として生きつづける。
「そういうところがまだ子供なのよ、あなた」
緋古那さん。
風見姫さんと一夜を過ごすことがあなたの仕事だというなら、私は責めないし咎(とが)めない。