此方は十六夜の蝶。
ただそこに、愛を入れないでください。
彼女を決して、愛さないでください。
あなたが傷ついてしまう。
「───迎えにきたぞ」
「……鷹、」
大門を出たところで見知った顔があった。
迎えに来たというよりは、あなたの本来の目的は隣の大門だろう。
花魁道中であれば門の外からも唯一見られる。
お姉さんに会いに来たついでの、私だ。
そこに関しては私も心から良かったと思っているから、いいのだけれど。
「おいおまえ、ウルに何かしたのか?」
「…いえ」
「嘘つくなよ!じゃあなんでこんな泣きそうな顔してんだよ!」
「……ちがうよ鷹、翔藍さんは私をここまで気にかけてくれたの。…帰ろう」
帰ろう、現実に。
門を出たなら極楽浄土は終わる。
風見姫さんと肌を重ねて、唇を合わせて、手をつないで。
そのあいだ私は唇を噛みしめるようにしながら、身体を凍えさせて眠る。
どうして花魁はあなたなの───と、今度は水月さんを恨んでしまうどうしようもない女だ。