此方は十六夜の蝶。
「俺はここを離れたら価値なんかないから。顔と生まれだけで生きているだけの、世間知らずな男だ」
「…それは俺も同じだろう」
「ちがうよ。八尋は、もとは外の世界から来た人間じゃないか」
ぜんぜん違うよ。
青空の下をおもいっきり走ったことがない俺と、1度でも経験したことがあるお前は。
きみはここから出たとしてもなんとかやっていけるだろう。
この場所だから呼吸ができているような俺なんかと違って。
「…寅威、」
「…っ、……手にするとやっぱり苦しいな」
欲しくなってしまうから。
望んでしまうから。
それほど、あの子は可愛いんだ。
かわいいんだよ。
「…数日前、妙な男が尋ねてきた」
おまえさ、友が泣いているときくらい慰めの一言くらい言えよ。
そんな淡々としてたら、いつか須磨ちゃんにも見限られてしまうんじゃないの。