此方は十六夜の蝶。




「そいつらの名前は?」


「聞いたが教えてくれなかった」


「…もしかしてウルの親、とか?」


「わからない」



可能性はありえる。

今ごろ娘を探しにやって来たというなら、まずは土下座をしろと俺が言いたい。


どれだけ苦しい思いをして、切ない思いをして、一生懸命ひとりで生きてきたと思っているんだ。


俺の握り飯がなかったら、あの子は確実に10歳で死んでいた。



「…なら、ちょうどいいかもね」


「ちょうどいい?」


「うん。これ以上、あの子を泣かせたくはないから俺」



期待を持たせて泣かせてばかりだ。

それは関わるぶん、これからもずっと。


矛盾してるよ本当に。


会いたかったから、また話したかったから、金をあげてまで足を運ばせて。

あの子が俺のことしか見なくなった途端に突き放すとは、なんて鬼のような男なんだ俺は。



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