此方は十六夜の蝶。
でもね、ウル。
金がすべてなこの場所で、俺はきみに一銭も払わせなかった。
それがどれだけすごいことか、わかるかい?
「…いいのか、本当に」
「鷹くんも戻ってきたようだし。俺にとっても……いい思い出ができたよ」
好きな女を、惚れた女を、抱きしめて接吻までできてしまったんだ。
こんな遊郭で生きる俺が、だ。
なあ水月。
おまえなら理解あるだろう。
それがどれだけ幸福なことか。
きみに幸福を与えられたのは、今も昔も俺だ。
「それで、わざわざここまでご足労どうもありがとう。今さらだけれど水月花魁殿、本日はどのようなご用件で?」
「……手紙を渡しにきた」
「…懲りないね、おまえも」
八尋。
おまえまでいなくなったら俺は寂しいから、できればずっと一緒にいてくれよ───。
*