此方は十六夜の蝶。
『今日で最後。もう来るのはやめな。…きみのためにも』
そうして彼は私にお金を渡すことはしなかった。
金がなければ物理的に行くことは叶わない。
なんとも単純な話だ。
『じつは風見姫に身請けしてもらえることになってね。…俺もようやく、籠から出られる』
嘘だとは分かっていたけれど。
あなたの優しすぎる嘘だとは。
水月さんのときより、心が苦しくてたまらなかった。
「…鷹、狭いよ。そっち隙間空いてる」
「空いてねーし!それにオレは寒がりなんだよっ」
「……もう5月だよ」
鷹に気をつかわせてしまっている。
16歳を迎える私たちは、お互いの扱い方が下手くそになった。
「ほらっ、こしょこしょ~!くすぐってえだろ!降参か?」
今までの鷹が戻ってきてくれて嬉しいのに。
こんな時間が、私は大好きで楽しかったのに。
なんにも笑えそうにない。
笑え、笑わなくちゃ。
そんなふうに思うだけ、涙が溢れてしまう。