此方は十六夜の蝶。
立っているにいっぱいいっぱい。
徳川なんて聞いて、将軍様の姓を聞いて、普通でしていられるほうが異様だ。
「…そんなの……、うそです、」
「嘘ではありません」
「だったらどうして…、私だけがじじ様と…?」
お城に住んでいたんじゃないの…?
本当にそこで生まれたのなら、私だけがこんな生活をしているっておかしいよ。
「あなたと一緒に暮らしていた彼は昔からの家臣のひとりでした。少々理由があり……生まれたばかりのあなたを引き取って城を出ると、彼が名乗りを挙げたのです」
お金がなかったから、じじ様のお薬も買えなかったの。
お金がなかったから、そのあとの生活も死に物狂いだったの。
私が尾張徳川の姫……?
信じられるわけがないよ、これまでの生活を経験していれば。