此方は十六夜の蝶。




「す、捨てられたの…?わ、私だけがいらないから捨てられたの……っ?」


「おいおっさん…!!と、徳川家の家臣だかなんだか知らねーけどっ、オレの大切な家族泣かせんじゃねーよ!!」



ぐいっと引っ張られて、鷹らしく抱きしめてくれる。


こうやって生きてきたんだ、私たちは。

ひとりじゃ凍え死にそうだったから、ふたりで温め合うしかできなかったの。



「…会いに行きましょう、慶勝様に」



武士にしては穏やかで優しい声だと思った。

無礼な口答えをしてしまった鷹を罰されてしまうかと怖かったけれど、そんなことはなく。



「そうすれば、すべてが解決されます。無論、あなたのことをいらない存在などと……私たちは思ったこともありません」



「もちろん素敵なお家も約束どおり差し上げます」と付け足し、彼は微笑んで丁寧に一礼すると。


久々知 久兵衛(くくち きゅうべえ)と名乗った男は去っていった。



< 230 / 303 >

この作品をシェア

pagetop