此方は十六夜の蝶。
親子
「ウル、うる、」
「な、なに…?鷹……、」
「オレの頬っぺた……つねってくれ…、千切れるくらいでいいから」
「……夢じゃ…、ないんだと思う……」
私と鷹がおなじ夢を見て、夢のなかで会話をしているだなんてありえない。
立派にそびえ立つ建物を見上げながら、とりあえずはお互いに頬をつねり合えば……。
「………いたい」
「………いてえ」
痛み、あるみたいです。
「城だ……!!すげえっ!なんだこれ…!!オレこんなの見たことねーよ…!!」
「う、うん…、堀があるよ鷹」
「泳げんのかな!?」
「……いや、泳ぐ場所ではないんじゃない…?」
とうとう尾張にまでやってきた私と鷹。
久兵衛さんの案内のもと、馬や駕籠(かご)を使って早3日ほど。
滅多に歩かされることはなかった。
さすがは天下の将軍家。
まさか江戸から尾張まで、そんな浅い日数で到着してしまえるだなんて…。