此方は十六夜の蝶。
「長旅でお疲れでしょう。ささ、お上がりください姫さま、鷹殿」
いちばん慣れなかったのは、なにをしたって、どんなときだって、お姫さま扱いをされること。
今もそうだ。
姫様だなんて、そんな呼び方はやめてほしい…。
鷹は逆に気分が上がって嬉しそうではあるけれど。
とと様に会うため、ここまで来てしまった。
鷹は私の家族でもあるから、その紹介含めて久兵衛さんはぜひ共にと。
「まずはこちらのお召し物にお着替えくださいませ。…女中よ、羽留姫さまのご案内を」
「はい。羽留姫さま、こちらへどうぞ」
侍女(じじょ)のひとりが私を奥の部屋へと案内してくれる。
ずらりと並んだ色とりどりな着物を目にして、どこか恐縮してしまった。
「……あの…、こちらの着物ではダメでしょうか…?」
「そちらは…姫さまがご持参を?」
「は、はい…、いつも着ている物のほうが落ち着くんです」