此方は十六夜の蝶。
「だったらこの着物じゃなくていい…!別のものでいいからオレに前借りで譲ってくれないか……!」
「触んじゃねェやい!!おまえ、孤児だったんだろ?町の外れで女と暮らしてるって聞いたことあるぜ」
あの店主が鷹にぜったい売ろうとしない理由は、そこが理由なのだろう。
決して前借りだとか、お金を持っていないからとか、そうじゃなく。
単純に私たちが野暮ったい身なりをしているからだ。
「どうせ、その女だって同じ孤児の出なんだろ。そんな女が手にしていい着物じゃねェな、古着すら勿体ねェよ」
「っ…!!」
「ぐは……ッ!!なっ、なにしやがる…!!」
ドガッッ!!と、店主は吹き飛んだ。
こぶしを向けたのは鷹。
あんなにも乱暴だけはしちゃいけないと約束していたのに、とうとう手が出てしまった。
「鷹……!」
「…ウル、なんで」
「いこう。もういいよ、大丈夫だから。…本当にすみませんでした」