此方は十六夜の蝶。
そして私も気づいて冷や汗。
お殿様を見て笑ってしまった……。
庶民にとってそれは、なによりも重い罪。
「そう怯えないでくれ。私にとっても今日という日は……夢のようだ」
ふわりと言う姿は父親だった。
そんなにも大切に思ってくれていたのなら、どうして。
どうして私だけ。
どうして、私だけを。
「羽夏は私が生涯で心から愛した正妻だ」
瞳が揺れてしまった私へと、真剣に語りかけられる。
ここを知れば私の悩みも不安も晴れるのだ。
────だいじょうぶ、大丈夫だよ。
私のなかに、緋古那さんがいた。
「羽夏はもとは徳川家の血筋ではなく、他藩の下級藩主の娘だった。…私の一目惚れで、この徳川家に迎え入れたのだ」
ちょうど彼がこの尾張徳川家の14代当主に即位された頃だという。
すぐに嫁に迎え入れたと語られた内容から、私たち一般庶民との大きな感覚の差を感じた。