此方は十六夜の蝶。
なんでも手にできてしまうのだと。
彼らの権力さえあれば、良くも悪くも気に入ったものはすべて。
「だが羽夏の身体は赤子を産めないと言われていた。私は徳川を背負っている身、子は必ずや産んでもらわねばならなくてな」
余計この徳川家は、女の子ばかりが産まれていたのだと。
将軍とさせるには男でなければならない。
そのため養子だったりを取って繋いではいたものの、やはり子は一族の宝であり未来。
そして上流社会においては、側室と呼ばれる複数の妾(めかけ)が存在することなど当たり前。
「そんなとき、おまえが羽夏の腹に宿ったのだ。本当に…うれしかった……」
たとえそれが男の子じゃなくとも。
彼はそんなもの関係なく、愛した女性とのあいだに宿った命がこの上なく幸福だったと。
喜びを噛みしめる表情は、今までの苦しみぜんぶを消していくものだった。