此方は十六夜の蝶。
「おいウル…!金じゃねえっておまえも言ってただろ!」
「だって鷹…、お金じゃないものは私、鷹と出会った瞬間からいっぱい貰ってるから」
「……おまえ、」
お金じゃない。
お金じゃないよ、確かに。
彼も言っていた。
「金で買えないものこそが本物なんだ」と。
ただね、
その取っ掛かりやきっかけを作ることは、あの街─吉原─ではお金しかないのも事実なの。
「お、お父様。私の人生で救ってほしいひとが……3人、います」
3人もいるのか。
なんと強欲な娘だと、思われるかもしれない。
けれど私からしてみれば3人“しか”だ。
それくらいには欲しがったっていいでしょう?
私は徳川家の姫でもあるのだから。
「お城はいりません。ただ、愛する人のために……、───徳川のお金と地位をどうか使わせてください」
あとにも先にも、今回だけ。
それが終わったなら庶民に戻る。
今さらこの家に戻るなんてできないし、私はウルとして生きていきたい。
「…やはり血は争えぬな」
「おとうさま、」
「とと様でよい。愛しの我が娘よ」
あなたは十六夜を舞う片羽の蝶だから。
このくらいの強引さがちょうどいいと、私は思うのです───。