此方は十六夜の蝶。
花街に生きるあなたに私だけを見て、だなんて本気で願ってしまうような。
金なんかないくせに愛を与えてもらえると思っている、憐れで惨めな女なの。
「俺も嫌だよ。…水月のためにたくさん泣いて、水月に会いたいがために俺を利用したきみが」
「っ…、す、すみま、」
「だから、その恨みを忘れるくらい俺を愛して。俺も…きみを愛すよ」
うそだ。
このひとは私のことも水月さんのことも、なんにも恨んでなんかいない。
そんな顔をしている。
「俺に愛してもらうんじゃないの?きみが満足するまで、俺が嫌と言ったとしても」
「で、でも……っ」
「いいから───…俺に愛させてよ」
離れることに怯えているのは、もしかすると私よりも彼なのかもしれない。
私がいなくなることに怯えているのは、寂しいと感じているのは。