此方は十六夜の蝶。
いいかウル、生きるんだ。
生きて生きて、生きるんだよ。
生きてさえいれば……必ず幸福は与えられる───。
あの日の出会いは、今日という幸福を掴むためのきっかけ。
「あの日きみに言えなくて、ずっと心残りだったことを言わせてほしい。…俺の名前はね────……寅威っていうんだ」
ずっと取り付けていた狐のお面をそっと外すように、彼は言う。
素敵な名前だと、これから何回、何十回、何百回と、私があなたの隣で言いつづけます。
「……わたし、は……ウル、」
「…ウル。いい名前だね」
月夜の下、涙は交ざって影はひとつになる。
キラリと光った蝶は。
せせこましくて意地っ張りな羽がふたつも合わさって、一生懸命羽ばたこうとしていた───。