此方は十六夜の蝶。
再会を果たしたものの、この場所に来る金は到底用意できないと鷹は言い、けれども私は会いたくて仕方がなかった。
そんな私たち姉弟に「手紙を送りあったらどうだ」と勧めてくれたのは、水月。
「お待たせいたいんした。須磨でありんす」
いまだに緊張する。
吉原の女郎として生きてきた身だけれど、花魁としてしっかり男を騙せているだろうかと。
そして風格を守らなければいけないという使命が、私にはあった。
「おうおう、きれいな女じゃないか。もっとこちらへ来るがよい」
「焦るのはようありんせんよ。まずはお酒を飲みんしょう」
こういうとき、私は水月を重ねる。
私だけには優しい水月を。
私のことだけは氷細工に触れるかのように愛でてくれる八尋を。
15の頃、たしかにお互いの初めてだけは奪ったあの日から。
なにも変わっていない少女は、ここにいる。