此方は十六夜の蝶。
それが江奈なのだ。
やはりあの頃のおまえは消えていないんだなと、俺としては愛しさが込み上げてきた。
「その女は私の誘いを断りっ、仕舞いには押し返したのだぞ!!!」
掴まれた胸ぐら。
そこで俺は、気づく。
この男の顔に見覚えがあることを。
すこし前、裏吉原に家来を何人か連れては俺にウルのことを聞き、「大切に扱ってくれ」とまで言ってきた男ではないか。
そんな男がなぜ暴れているんだ。
「私を殴ってくれ」
するとボソッと、俺にしか聞こえない声で言ってくる。
なにを言っているんだと、すべてが疑問と困惑に変わった。
「そこまでしてくれなければ、君たちを逃がす理由にまでならない」
おもいっきりやってくれていい、と。
むしろ力が強ければ強いほど、俺たちが望む未来の可能性が高くなるとまで言われたようだった。