此方は十六夜の蝶。




それが江奈なのだ。

やはりあの頃のおまえは消えていないんだなと、俺としては愛しさが込み上げてきた。



「その女は私の誘いを断りっ、仕舞いには押し返したのだぞ!!!」



掴まれた胸ぐら。

そこで俺は、気づく。
この男の顔に見覚えがあることを。


すこし前、裏吉原に家来を何人か連れては俺にウルのことを聞き、「大切に扱ってくれ」とまで言ってきた男ではないか。


そんな男がなぜ暴れているんだ。



「私を殴ってくれ」



するとボソッと、俺にしか聞こえない声で言ってくる。

なにを言っているんだと、すべてが疑問と困惑に変わった。



「そこまでしてくれなければ、君たちを逃がす理由にまでならない」



おもいっきりやってくれていい、と。

むしろ力が強ければ強いほど、俺たちが望む未来の可能性が高くなるとまで言われたようだった。



< 291 / 303 >

この作品をシェア

pagetop