此方は十六夜の蝶。
逃がす………?
俺たちを逃がそうとしているのか…?
この男は……。
「これは君の友人からの頼まれ事でね」
気がつけば俺は男の顔面を1発、固く握ったこぶしで殴っては吹き飛ばしていた。
“友人”と言われて思い浮かんだ人物は2人。
昔から兄弟のように育ち、俺のためだけに自分の地位をわざと下げてまで俺を花魁にしてくれた不器用な男。
そしてもうひとりは、何度も俺に騙されては涙を流し、それでも“キツネさん”だけを追いかけつづけた綺麗すぎる少女。
「水月花魁…っ、なんてことを……!!」
「も、申し訳ありません久々知殿…っ、この無礼はどうかっ、どうか……!」
ただただひざまずき、畳に顔がめり込むほど頭を下げる吉原側の悲願は応えられることなく。
新たに部屋に上がってきた家来だと思われる数人の手によって、俺と須磨の身柄は確保されてしまった。